「李陵・山月記」(中島敦)

文章の格調の高さと生き方に関わる問題提起

「李陵・山月記」(中島敦)新潮文庫

詩人を志した李徵(りちょう)は、
その道に挫折し、発狂し、
ついには闇の中へ消え、
虎となる。
一年後、
明け方に通りかかった
袁慘(えんさん)をかつての友と
認めることのできた李徵は、
自分が虎になった
いきさつを語る…。
「山月記」

もし中島敦の作品を
文庫本で読みたいとしたら、
お薦めは絶対
ちくま文庫「中島敦全集1~3」です。
注釈が豊富で、
しかもそのページに載っているので、
いちいちページを
巻末へ移動させる必要がありません。
しかしちくま文庫全集は
値段が高い(1巻1000円以上)ため、
一般にはお薦めできません。

天下第一の弓の名手を
志した紀昌は、
瞬きをしない修練に二年、
的を睨む修練に三年を費やし、
師・飛衛と並ぶに至る。
さらに上を望む紀昌に、
飛衛から霍山の甘蠅老師を
訪ねることを奨められる。
老師は紀昌に
「不射の射」を説く…。
「名人伝」

お薦めはやはり新潮文庫版になります。
こちらには中島の4大傑作
「山月記」「名人伝」「弟子」「李陵」が
すべて収録され、
500円以下で買うことができます。

この4篇が特に有名なのは、
やはり文章の格調の高さでしょう。
漢文の素養の高い中島は、
中国を素材にしたこの作品群では
他の作品以上に言葉を選んで
使っている印象を受けます。

衛の君主・霊は、
南子夫人に籠絡され、
国政を誤っている。
孔子の一行はこの衛の国に入る。
孔子は霊公に謁したが、
南子には赴かなかった。
腹を立てた南子から
呼び出しがあり、
孔子は渋々臣下の礼をとる。
それに対し子路は…。
「弟子」

そしてこの4篇は
人の生き方に関わる問題提起を
含んでいることも特徴的です。
道を究めようとした
「山月記」の李徵と「名人伝」の紀昌、
それぞれの運命は対照的です。
「弟子」での孔子と子路の生き方も
対比されて考えられるべきでしょう。
「李陵」では李陵と司馬遷・蘇武の、
苦難に際した三者三様の在り方が
描かれています。

中国前漢時代、
李陵は匈奴征伐のため
漠北へと出陣する。
騎馬主力の匈奴に対して、
李陵が与えられたのは
僅かな歩兵だけであった。
圧倒的不利な状況で
奮闘する李陵であったが、
四方を囲まれ、
激戦の果てに
ついには捕虜となる…。
「李陵」

単純に「面白い作品」といってしまえば、
「中島作品にはずれなし」であり
すべてが超一級の面白さです。
でも格調の高さを求めると、
この4作品に集約されると思います。
何度も味わいたい作品群です。

(2019.12.8)

【青空文庫】
「山月記」(中島敦)
「名人伝」(中島敦)
「弟子」(中島敦)
「李陵」(中島敦)

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